記憶力のもんだい

年を取ると記憶力が落ちると言いますが、記憶する力が落ちるというより、記憶する容量が減るんだなあと思うようになりました。もちろん記憶する力も落ちているのでしょうが、絶対に覚えなくてはならないことはそれなりに覚えられるので、優先度の低い事柄は記憶するためのタンクから溢れてしまって、なかったことになっているような気がします。

 

というのも、職場に新しく入った男性がびっくりするくらい色んなことを忘れるのを目の当たりにしていたからです。頭の回転が遅いとか仕事の難易度が高いとかではなく、それほど重要じゃないと(彼が勝手に)判断した作業は、すっぽり記憶から抜け落ちている感じでした。オータも新しい業務を覚える時はこんな感じなんだろうかと思いながら、その忘れっぷりに日々衝撃を受けていました。

 

彼は40歳くらいで、礼儀正しくて明るくて感じのいい男性です。転職エージェントの紹介で、複数の候補者の中から数度の面接を経て入社したので、きちんとした経歴と経験がある人なのだと思います。ちなみに会社がエージェントに支払った紹介料は250万円(!)でした。

 

オータは彼に一般的な事務仕事を引き継ぎました。会社独自のルールはあるものの、特別に難しい業務ではありません。スケジュールやマニュアルをわたし、横について手順を説明し、本人も自分用のマニュアルを作成していたのですが、ときどきルーチン業務を飛ばしていたり、教えたのと違うやり方で手間取ったりしていました。慣れるまで仕方ないと思うものの、説明するたびに「そうなんですか!」「初めて知りました!」と驚きつつお礼を言われ、先週も先々週もまったく同じ説明をしたな~なんて思うことが何度もありました。

 

ある時また「初めて」だと言うので、「自分用のマニュアルを作ってましたよね」と聞いてみると、確かにマニュアルはあるけど作成した記憶がない、と絶句していました。

 

一度や二度で覚えきれないのは当然だと思うのですが、彼の場合はあやふやとかいうレベルではなく、説明を受けたり作業したこと自体きれいさっぱり記憶から消えているのが印象的でした。ただ、同じ作業を4〜5回繰り返すと自分の中に定着するようで、それ以降は問題ありませんでした。

 

そんな彼を見ていて、オータも40歳で転職した時、仕事がなかなか覚えられなくて苦労したことを思い出しました。繁忙期に入社したため、あらゆる業務がいっぺんに降ってきて、頭の中は常に大混乱していました。仕事が覚えられず理解できず、理解できないから順番がつけられず、順番がつけられないから効率が悪く、たまっていく膨大な仕事を前に苦しい日々を過ごしました。

 

そんな時、当時50代の上司が口にしたのが「この年になるとなかなか覚えられないから仕方ないわよ」という台詞でした。

 

オータはそれまでにも何度か転職していましたが、ほぼ同じ業界だったため、新しい職場でもとくに苦労しませんでした。でも、40歳で飛び込んだのは未知の世界。それまでの経験や知識は何の役にも立たず、周りがみんな賢く見え、自分の要領の悪さ、記憶力の悪さに落ち込んでいました。上司の言葉を聞いて、覚える力が落ちたんだ、と初めて気付いたのです。

 

上司は非常に厳しい人でしたが、ぼろぼろなオータを見るに見かねてなぐさめてくれたようでした。そんなオータも反復効果で少しずつ仕事が頭に入り、2年目にはなんとか自分のペースでできるようになりました。後になって、上司もオータが担当した業務を覚えるのに相当苦労したと聞きました。

 

オータはもともと記憶力に自信がありません。若い頃から自覚しているので、忘れてはならないことはあちこちにメモしてなんとか乗り切ってきました。パソコンの中のメモ帳やカレンダーに書き込んで、重要な予定はアラートを設定したり、自分宛にメールを出して未開封のままにしておいたり。机の周りにも付箋やメモを貼っていますが、心配な時は携帯電話に付箋を貼り、もっと心配な時は自宅の玄関に張り紙をしています。

 

あちこちにメモすると一応安心するのですが、メモしたことを忘れてしまい、自分で設定したアラートにびっくりすることもままあります。いまは大切なことはデジタルとアナログを組み合わせて3〜4ヶ所にメモしていますが、そのうちもっともっと増えるかもしれません。上司の言葉が身にしみます。

 

このブログも、自分自身の状況を大まかに記録しておけば後で役に立つかも、というところから始めました。もう少しマメに投稿するつもりだったのですが、老いネタはたくさんあるのに、書くスピードがまったく追いついていません。それでも、文章を考えたり言葉を調べたりするだけで多少は頭の体操になっているはず、と自分をなぐさめたり励ましたりしています。